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重松清 流星ワゴン

重松清 流星ワゴン
★★★★☆オススメ度総合
★★★☆☆感動度
★★★☆☆ハマリ度
★★★★☆面白い度

重松氏の作品は、「とんび」もそうだったけど、父子の情愛が本当にズルイくらい感動的だ。
「流星ワゴン」は絶対に現実としてあり得ない話しだから、ヘタしたら幽霊が出てきた段階で、そらないわー、って感じでウソくささ満載になるのかと思いきや、
こんな感動的な最後を用意するっていうのはやっぱり重松氏ならでは!という気がする。
登場人物の人柄も、どれもにじみ出てくるような深い味わいがあるのだ。

選タクシーってドラマがあったのだけど、
あれは過去に戻って違う選択肢を選び、そこからの人生をやり直すって話しだったけど、
この「流星ワゴン」は過去に戻ったとしても状況を変える選択肢はないのだ。
じゃあなんで過去に戻るのかというと、現実に向き合って後悔しないためなのだ。

自分の過去は変えられないし、あの時ああしとけば今こんなに後悔しなくてもよかったのだろうか?・・なんて、現実がつらければつらいほど人は悩みも大きいのだけど、
そのつらい現実にどうやって立ち向かっていくかが問題なのだ。



主人公は38歳の一雄。
息子は家庭内暴力で引きこもり、妻はテレクラに狂っている。
会社をリストラされたことも言えず、妻には離婚を切り出され、
さらに、父は癌で余命いくばくもない状況だった。
大嫌いな父親が入院している故郷にたびたび帰るのは、父の見舞いに行くためではなく、
お車代を貰ってその差額を生活費にするためだ。

そんなサイテーの現実にうんざりして死んだっていいや、
なんて呆然と思っている一雄の前に1台のワインレッドのオデッセイが止まるのだ。
車の中には親子。
「早く乗って」とせかされた一雄はあまり不審にも思わずに乗ってしまう。
実は、この車の親子は幽霊なのだ。
5年前にたまたま一雄が新聞で交通事故死した記事を読んだのだけど、
まさにその時に死亡した親子だった。

幽霊の親子は一雄を今までの人生の大切な分岐点に連れ戻すのだ。
そこには、一雄と同い年の父親、チュウさんも存在していた。
この車はガソリンを給油する代わりに人の重い後悔で走る車だ。

過去に戻った一雄は、自分の妻がテレクラで数えきれないくらいの男と関係を持っていることを知り、あるいは自分の息子が中学受験のためにどれだけ追いつめられているかを知るのだ。

息子は中学受験を失敗する。
過去に戻った一雄は、どうにか受験をさせないように息子に接するが、
やっぱり現実は変えられず一雄はもどかしさを感じるのだ。
そんな一雄に寄り添っているのが、昔気質で一雄の大嫌いな父親だった。
ただし、父親は自分と同い年。
父でもなく友人でもなく「朋輩」、チュウさんとして接してくれるのだ。
父ならこのサイテーな状況をどう切り抜けていくのか、
あるいは、一雄に対する父のホンネの部分も
同い年だからこそ少しだけわかりあえる一雄だった。

過去を再体験した一雄は、最後に死ぬことを選ばずサイテーの現実に戻って生きることを選択する。
覚悟ができた人間は、強いってことだ。

一雄をとりまく家族も感動的なのだけど、
それと同じくらい泣かせてくれるのが実はこの幽霊親子なのだ。
妻の連れ子なので血がつながっていない父子なのだけど、
がんばって車の運転免許を取った父が初めてドライブに連れて行った日に事故って死んだのだ。
父は自分のどんくささを後悔し、成仏できずにこうしてさまよっている。
それでも子供にだけは成仏させてやりたいと願うのだ。
でも結局子供が選択するのは成仏ではなくて、父と一緒にいることだった。
なぜなら、成仏してしまうと父親と離れ離れになるからなのだ。
この子供が小生意気なんだけど、もう可愛すぎてたまらん。


このストーリーの良いところは、現実を変えられないところにあるんだと思う。
この先、希望たっぷりの現実が絶対に待ちうけていないとわかっていつつ、
生きていこうとする一雄に希望を見るのだ。
単に甘すぎない結末に、読者が自分と重ねあわせて頑張って生きていこうというチカラをもらえる気がするのだ。

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